私が初めてバイトの給与明細を見たときの正直な感想は、「ん? 意外と引かれていないな。ラッキー」だった。その数か月後、確定申告で追納の数字を見て凹むことになった。
逆に、「本業よりずっと引かれている。高すぎないか」と感じた人もいるかもしれない。
実は、どちらの体感も正しい。どういうことかというと、バイトの給与は乙欄という仕組みで源泉徴収される。本業では扶養控除等を差し引いた金額で税金を考えるが、バイトの乙欄ではそれが反映されないため、同じ額面なら多く引かれる(詳しくは後述)。一方、常勤(本業)の年収が高い人では、累進課税のためバイトでは本来の税率に届かないことが多い。源泉徴収された金額は確定申告で精算される。また、社会保険料もバイト先の給与からは引かれない。本業の年収が高い医師では、足りない側=追納になるのが基本だ。この記事では、その仕組みと分かれ目を、実際の税額表とシミュレーターの実測値で提示する。
この記事でわかること
- バイトの源泉が本来の税額に足りない理由(乙欄の仕組み)
- 給与バイトと報酬(講演料・原稿料等)で源泉のルートが違う理由
- 還付になる人・追納になる人の分かれ目
- 確定申告が必要になる条件(20万円ルールの正確な適用)
- 20万円以下でも住民税の申告は必要になること(補足)
結論:バイトの源泉徴収は仮の前払い。医師は追納になることがほとんど。
乙欄の源泉徴収は、あくまで精算前の概算額である。
なぜそうなるかというと、バイト先は常勤先の総収入を知らない。合算した所得が分からないまま、2か所目以降の給与向けに設計された乙欄レートで天引きしている。
バイト先の給与明細での天引きが少ないのは税率以外の理由もある。常勤先で社会保険に加入するため、原則的にバイト先では社会保険料は引かれず、住民税もバイト先では天引きされない(住民税は翌年別途課される。またバイトのみで生計を立てている場合はこの限りではない。)。社会保険料と住民税が天引きされている常勤先の給与明細と比較すれば、あまり天引きされていないように見えることが多い。
この概算と「本当の税額」のズレを、確定申告が精算する。
精算の結果が還付側か追納側かを決めるのは、本業常勤の限界税率だ。
乙欄源泉は精算前の概算払い。還付か追納かは確定申告で初めて決まり、本業の限界税率が分かれ目になる。
限界税率とは何か
平均税率とは違う。「次に稼いだ1円から、いくら持っていかれるか」の割合のことだ。
課税所得が900万円〜1,800万円の帯にある医師の限界税率(所得税)は33%だ。これに住民税10%が乗るため、バイト収入のうち43%超が税と住民税に消える計算になる(さらに復興特別所得税が所得税額の2.1%加わる)。なお、給与と課税所得は異なることに注意する必要がある。
一方、乙欄で引かれる率は、この限界税率より低いことが多い。そのズレが、追納側に振れる主な要因である。
「バイトすれば必ず追納」という話ではないが、高年収帯(=本業の限界税率が高い)である医師は、追納側に振れやすい。
甲欄と乙欄:同じ月給なら本業より高く引かれる仕組み
源泉徴収の税額表には「甲欄」と「乙欄」がある。
どちらの欄を使うかは「扶養控除等申告書」の提出状況で決まる。
扶養控除等申告書は、1か所にしか提出できない。
これが核心だ。常勤先に出している医師は、2か所目以降のバイト先には出せない。扶養控除等申告書のある勤務先は甲欄で計算され、申告書のないバイト先は原則として乙欄で計算される。(出典:国税庁 タックスアンサー No.2520「2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2520.htm)
仮にまったく同じ額面給与なら、乙欄は控除が反映されない分、甲欄より高い税率が適用される設計になっている。
乙欄の税額(令和8年分 月額表)
以下は、令和8年分 給与所得の源泉徴収税額表(月額表・乙欄)に基づく源泉徴収税額の目安だ。社会保険料等を控除した後の給与月額が基準になる。
| 社保控除後の給与月額(目安) | 乙欄の源泉徴収税額 |
|---|---|
| 100,000円 | 3,063円 ※ |
| 200,000円 | 19,700円 |
| 300,000円 | 53,600円 |
表の使い方: 乙欄は額面給与ではなく、社会保険料等を控除した後の給与月額に対応する行でみる。額面の金額で表を見ると税額を読み違えるので注意してほしい。
※ 100,000円は月額表の「105,000円未満」の帯にあたり、この帯の乙欄は一律で月額の3.063%として計算する(100,000円×3.063%=3,063円)。200,000円は「199,000円以上201,000円未満」、300,000円は「299,000円以上302,000円未満」の該当行の税額をそのまま転記した。
出典:国税庁「令和8年分 給与所得の源泉徴収税額表(月額表・乙欄)」(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2026/data/01-07.pdf)
Dr.マコト・勤務医
乙欄の税率は何%と固定されているわけではなく、給与月額によって段階的に変わる。月額が上がるほど乙欄の実効税率も上がる設計だ。表を見ると、同じ給与月額ならば甲欄(扶養なし)より常に高くなっている。
「報酬」との違い:明細のどこを見るか
バイト代には、大きく2種類がある。「給与」か「報酬」かだ。この区分によって、源泉のルートも精算のやり方も変わる。
給与扱いのバイト(非常勤勤務など)
非常勤として病院に勤務し、給与として支払われるものが該当する。源泉徴収税額は乙欄で計算され、確定申告で給与所得として精算される。手元に届く書類は「源泉徴収票」だ。
報酬扱いのもの(講演料・原稿料など)
講演料・原稿料・執筆報酬などは「給与」ではなく「報酬」にあたる。源泉徴収の率は原則10.21%(所得税10%+復興特別所得税2.1%)だ。支払金額が100万円を超える部分は20.42%になる。(出典:国税庁 タックスアンサー No.2795「原稿料や講演料等を支払ったとき」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2795.htm)
確定申告での扱いは「雑所得」になり、経費を差し引ける。手元に届く書類は「支払調書」だ。
医師の収入は、給与と報酬が混在しやすい。乙欄の非常勤給与に加え、産業医・健診の収入(原則「給与」で源泉徴収票が届く)、講演・原稿(「報酬」で支払調書が届く)と、明細や送付書類が異なる。
給与か報酬かは、届く書類で見分ける。源泉徴収票=給与、支払調書=報酬。精算のルートが変わるので区分は重要だ。
Dr.マコト・勤務医
報酬の源泉10.21%は、高所得帯の医師の限界税率(所得税33%+住民税10%)と比べると、かなり低い。給与の乙欄より追納が大きくなるケースも多いが、経費を使えば影響を小さくできる。詳しくはバイト税の記事で解説している。
→ 乙欄・報酬源泉の仕組みをさらに詳しく知りたい場合は医師のバイト代、確定申告でいくら取られる?を参照してほしい。
還付になる人、追納になる人:分かれ目は限界税率
乙欄の実効税率が、本業の限界税率より低ければ追納側に振れる。高ければ還付側だ。
医師の場合、本業の常勤年収が高いほど限界税率は高くなる。年収帯ごとの限界税率の目安は勤務医の年収別 手取り早見表にまとめているので、まず自分の年収帯がどの帯に入るかを確認してほしい。
ツールによる数値例(前提条件を必ず確認のこと)
追納・還付の額は条件によって大きく変わるため、ここでは手取りシミュレーター(/tools/take-home)の計算結果のみを参考として示す。
以下は、同じ「バイト月20万円(年240万円・給与・乙欄)」のまま、本業の年収だけを変えて試算した2ケースだ。いずれも賞与なし・東京・独身・40歳未満・バイトは社会保険の対象外という前提で揃えている。
条件A:本業 月給約83.3万円(年約1,000万円)
- バイト:月20万円(年240万円・給与・乙欄)/賞与なし・東京・独身・40歳未満・バイトは社保対象外
- 源泉徴収の合計 約106.0万円 に対し、本来の所得税は 約135.9万円。
- → 確定申告で 追納 約29.9万円。
条件B:本業 月給125万円(年1,500万円)(バイトを含むその他の条件はAと同じ)
- 源泉徴収の合計 約233.5万円 に対し、本来の所得税は 約290.8万円。
- → 確定申告で 追納 約56.9万円。
同じバイト条件でも、本業を1,000万円から1,500万円に上げただけで、追納は約29.9万円から約56.9万円へと約2倍近くに膨らむ。
理由は乙欄の源泉の構造にある。バイトの乙欄の源泉は月20万円で年約23.6万円(前掲の表の月19,700円×12)だ。この概算額は、「上乗せの240万円」に本業の高い限界税率がかかったときの本来の負担には届かない。本業の年収が高いほど、その上乗せ分にかかる限界税率は高くなる。だから乙欄で先払いした概算と本来の税額との差=追納は、本業年収が高い人ほど大きくなる。
実効負担率で見るとさらに明確だ。ここで実効負担率とは、バイト収入(年240万円)に対して、乙欄の源泉徴収・確定申告の追納・翌年の住民税を合わせた税負担が占める割合を指す。この定義で計算すると、バイト分の実効負担率は条件Aで約32.5%、条件Bで**約43.7%**になる。同じ240万円を稼いでも、本業が高い人ほど手元に残らない。
ここで見たとおり、医師のように本業の所得が高い層では、乙欄源泉が本来の負担に届かず追納側に振れるのが基本になる。還付になるのは、本業の課税所得が低めで、限界税率が乙欄の実効税率を下回るような限られたケースだ。
高年収帯(限界税率が高い)ほど追納側に振れやすい。「乙欄だから還付になる」は誤解だ。分かれ目は本業の限界税率にある。
この計算を自分の条件でやってみるには、手取りシミュレーターが一番速い。
精算の手続き:確定申告が必須になる条件
バイト収入の税額精算は、確定申告で行う。ここで「必ず申告が必要か」を正確に把握しておく。
所得税の申告義務(いわゆる20万円ルール)
2か所以上から給与を受けていて、年末調整されなかった給与の収入金額と、各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)との合計額が20万円を超える場合は、原則として確定申告が必要だ。(出典:国税庁 タックスアンサー No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1900.htm)
バイト収入が給与である非常勤・スポット勤務の場合、年間で20万円を超えたら申告が必要になる。年間12か月換算で月2万円弱相当だ。医師のバイト代の水準では、ほぼすべてのケースで確定申告が必要になる(追納側は義務として、還付側は引かれすぎを取り戻すために)。
副業20万円ルールとは?(参考)
副業20万円ルールとは、給与所得者が給与所得および退職所得以外で得た所得が年間20万円以下の場合は、所得税の確定申告が不要になるという特例である。
一般に副業20万円ルールと言われるのは、給与を1か所から受け取り、それとは別に副業の雑所得がある人を想定した説明である。医師のバイトは、ほとんどのケースでこのルールを適用できない。非常勤やスポットの多くは給与であり、給与が2か所以上になる話だからだ。給与2か所の場合にも20万円の線は別に定められているが(No.1900)、医師のバイト代の水準では多くが20万円を超える。
なお、給与収入の合計額から一定の所得控除を差し引いた金額が150万円以下で、かつ各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)が20万円以下の場合にも申告は不要とされる。ただし常勤の給与がある医師の水準では、この150万円の条件に当てはまらない。
なお、確定申告をすれば税金が還付される人は、この申告義務の対象から除かれる(No.1900の明文)。還付側の医師に申告の義務はないが、申告しなければ引かれすぎた分は戻らない。
なお、仮に副業20万円ルールの対象となって確定申告の義務がなくても住民税の申告は必要だ。確定申告をすれば住民税の申告を兼ねるが、確定申告をしない場合は別途、市区町村への住民税申告が必要になる。
源泉徴収票の集め方
確定申告では、常勤先とすべてのバイト先の源泉徴収票を揃える必要がある。集め方の手順は勤務医の確定申告、何から始める?に詳しくまとめてあるので合わせて参照してほしい。
まとめ:還付か追納かは、自分の給与やバイトの金額から分かる
この記事で押さえるべきことを整理する。
- バイト代に適用される「乙欄」は、2か所目以降の給与に原則として適用される源泉徴収の仕組みだ。扶養控除等申告書は1か所にしか出せないため、バイト先は甲欄が使えず乙欄になる(年末調整をどちらの勤務先で行うかも同じ仕組みによる)。
- バイトの源泉はあくまで概算の前払いである。確定申告で精算され、還付か追納かに分かれる。
- 精算の結果が還付か追納かは、本業の限界税率と乙欄の実効税率の差で決まる。高年収帯の医師は追納側になることが多い。
- 講演料・原稿料など「報酬」は10.21%の源泉徴収で、精算は雑所得として行う。給与バイトと混在しやすいため区分を確認する。
- 確定申告の義務は2か所給与+他所得の合計が20万円超から発生する。住民税は金額を問わず申告が必要だ。
自分の年収とバイト額で実際にどちらになるかは、計算しないと分からない。手取りシミュレーターに条件を入れれば、見込み額がすぐ出る。
節税の余地には上限がある。根本的に手取りを増やすのは、常勤の年収そのものを動かすことだ。手段ごとの効果は4つの鍵として整理した記事で比較している。
本記事は令和8年分(2026年)の税制・源泉徴収税額表に基づき、2026年7月時点の情報で作成しています。税制は年度ごとに改正される場合があるため、最新の情報は国税庁ホームページ等でご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務判断については税理士等の専門家にご相談ください。
著者:勤務医 Dr.マコト